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10月 29, 2022の投稿を表示しています

てがみ            

煙草の包み紙と一緒に、 懐かしい手紙がアルバムに挟まったままだった。 窮屈な場所で二~三十年余りの時間を過ごした手紙だ。 人間には、なかなか気付けないこともある。 なんと哀しいことかと、今思う。 出会ったのは君が十二の頃だったんだね あれから随分の時が過ぎてしまい 僕の髪がぱらぱら白くなり始めた夏だった 消息を風のたよりに聞いて、僕は東京へ君を訪ねた 「少し年を取りすぎたかな」と、口にする僕に 「私も同じ数だけ年を取りました」と君は笑ったね 僕は妻に「小さな恋人に会ってくる」といって出かけたのだけど 僕の気がかりをよそに、自然体で生きる君に驚いた 当たり前のことだけど、君は大人だった 君と会えるのもこれが最後かもしれない ややへこたれ、この手紙を書いている けれど胸の奥から、どうしようもない悲哀と一緒に 熱いものがこみあげてきたんだよ 妻は髪をくしけずる僕を横に 「まだまだ捨てたものじゃないですよ」といってくれた 僕は精一杯、男前でありたいと思った  見舞いにきてくれてありがとう  君に会えて、ほんとうによかった 色々ね、なんて勘違いして生きてきたのかってね。 きっと先生のこころを痛め、手を焼かせた どんなに多くの、小さな恋人がいたことだろう。 やっと戻ってこられたのだけど…。 開け放たれた土間を通り抜け、 手紙のインクを舐めるように風が吹く。 こんな閑かな時間が他にあるだろうか。