てがみ            




煙草の包み紙と一緒に、
懐かしい手紙がアルバムに挟まったままだった。
窮屈な場所で二~三十年余りの時間を過ごした手紙だ。
人間には、なかなか気付けないこともある。
なんと哀しいことかと、今思う。


出会ったのは君が十二の頃だったんだね
あれから随分の時が過ぎてしまい
僕の髪がぱらぱら白くなり始めた夏だった
消息を風のたよりに聞いて、僕は東京へ君を訪ねた
「少し年を取りすぎたかな」と、口にする僕に
「私も同じ数だけ年を取りました」と君は笑ったね
僕は妻に「小さな恋人に会ってくる」といって出かけたのだけど
僕の気がかりをよそに、自然体で生きる君に驚いた
当たり前のことだけど、君は大人だった
君と会えるのもこれが最後かもしれない
ややへこたれ、この手紙を書いている
けれど胸の奥から、どうしようもない悲哀と一緒に
熱いものがこみあげてきたんだよ
妻は髪をくしけずる僕を横に
「まだまだ捨てたものじゃないですよ」といってくれた
僕は精一杯、男前でありたいと思った

 見舞いにきてくれてありがとう
 君に会えて、ほんとうによかった






色々ね、なんて勘違いして生きてきたのかってね。

きっと先生のこころを痛め、手を焼かせた
どんなに多くの、小さな恋人がいたことだろう。
やっと戻ってこられたのだけど…。

開け放たれた土間を通り抜け、
手紙のインクを舐めるように風が吹く。
こんな閑かな時間が他にあるだろうか。









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