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3月 19, 2024の投稿を表示しています

渇愛            

執着などじゃないんだから、 てね、そう思うのだけれど。 スクールカウセラーをしている妹からLINEが入った。 「この頃思うの、もう辞めてやるんだからって…」 物事に心躍らせることもなくなった。 そう、とおの昔にだ。 「当り前だけど、世の中なんて正義感だけじゃ生きてはゆけないし…」 「待ってよ。生きてゆけない何てどころの騒ぎじゃないんだから」 そう言えば能登震災のニュース番組だった、 ご高齢のスクールカウンセラーが、 被災した子供たちにアドバイスする情景が映し出されていた。 片方の耳がうすっぺらいスピーカーから流れてくる声を拾う。 待ってよ、そんな箇条書きのアドバイスでいいの…、 なんて思いながらね。 でもね、 マイクが向けられ感想を語る 少女(小学生の高学年?)は、 「いろいろ為になりました。今後に活かしてゆきたいと思います…」 凛とした表情で応える。 『我が小学校の生徒として恥ずかしくない三重まるの回答だ‼‼』 なんて思いながら、 少女の頭を撫でている校長の姿が目に浮かぶ。 確かに、ほころびの無い賢そうなコメントだ。 この少女のコメントに、なんと健気な子供だろうと涙ぐむのだろうか? でも、こんな言葉を言わせるのは、いったい誰なんだ? ぬくもりの手を拒否した廃屋の北側、 壊れかけた庇の格子窓の下に小さな焚口が見えた。 そこに繰り返されただろう日常は一瞬に消え去り そうしてスローモーションに崩れていったに違いない。 昨日までの時がどのようであったのか 私に思い入れはない。 こころに積み上がるものなどありゃしない… 幼子に手を差し伸べるように 枝を伸ばしていた松の木が姿を消した事も。 松をゆする音とともに抜けていった風と、 松の葉を焚口にくべる背中がそこにあって、 パチパチ纏わりつきながら、その背に赤い火の子が遊ぶ光景もだ。 だいいちさ、 そこに手を伸ばしても、もう、誰にも届きゃしない。