渇愛
執着などじゃないんだから、 てね、そう思うのだけれど。 スクールカウセラーをしている妹からLINEが入った。 「この頃思うの、もう辞めてやるんだからって…」 物事に心躍らせることもなくなった。 そう、とおの昔にだ。 「当り前だけど、世の中なんて正義感だけじゃ生きてはゆけないし…」 「待ってよ。生きてゆけない何てどころの騒ぎじゃないんだから」 そう言えば能登震災のニュース番組だった、 ご高齢のスクールカウンセラーが、 被災した子供たちにアドバイスする情景が映し出されていた。 片方の耳がうすっぺらいスピーカーから流れてくる声を拾う。 待ってよ、そんな箇条書きのアドバイスでいいの…、 なんて思いながらね。 でもね、 マイクが向けられ感想を語る 少女(小学生の高学年?)は、 「いろいろ為になりました。今後に活かしてゆきたいと思います…」 凛とした表情で応える。 『我が小学校の生徒として恥ずかしくない三重まるの回答だ‼‼』 なんて思いながら、 少女の頭を撫でている校長の姿が目に浮かぶ。 確かに、ほころびの無い賢そうなコメントだ。 この少女のコメントに、なんと健気な子供だろうと涙ぐむのだろうか? でも、こんな言葉を言わせるのは、いったい誰なんだ? ぬくもりの手を拒否した廃屋の北側、 壊れかけた庇の格子窓の下に小さな焚口が見えた。 そこに繰り返されただろう日常は一瞬に消え去り そうしてスローモーションに崩れていったに違いない。 昨日までの時がどのようであったのか 私に思い入れはない。 こころに積み上がるものなどありゃしない… 幼子に手を差し伸べるように 枝を伸ばしていた松の木が姿を消した事も。 松をゆする音とともに抜けていった風と、 松の葉を焚口にくべる背中がそこにあって、 パチパチ纏わりつきながら、その背に赤い火の子が遊ぶ光景もだ。 だいいちさ、 そこに手を伸ばしても、もう、誰にも届きゃしない。