十五夜

 

 

子供の頃、よく月を追いかけた。
 
けれど、追いかけても追いかけても
その距離が縮まることはなくて…
いい加減にしてねとあきらめれば、
なぜだか私の後ろをついて来る。
何てあまんじゃくなおっ月さんだろう。
 
銀座通りから東銀座へ行くまでの途中に路地があった。
間口一間半ほどの通りに、いくつかの飲み屋が軒を連ねていた。
そのうちの一軒の暖簾をくぐると、「いらっしゃい」
白髪交じりの髪を、小奇麗に結いあげた女将が迎えてくれる。

店は飲み屋の賑わしさなどもなく。
たいていは一人、せいぜい二人連れの客がほとんどで、
客たちは背負う荷物を降ろし、ひとときを過ごす。
「男子家を出ずれば七人の敵あり」
男の見栄とか、仕事のプライドとか、競争社会のだまし合いとか…、
そりゃ人の付き合いも難しく苦労も多い時代だった。
もちろん女もね^^
 
女将は元新橋芸者だった。
着物にたすき掛け、その振る舞いに雰囲気を残していたけれど、
あでやかな張りのある女はとうに姿を消し、
枯れた穏やかさが心地よい空間をもたらしてくれていた。
 
店の名前は「雨情」といった。
「雨上」あめあがりと書かれていたかも…?
でも、どちらも良い店名だ^^
 
十五夜お月さん母さに もいちど私は会いたいな  野口雨情
 
雨上の路はぬかるみ、水溜には火影うつる    国木田独歩

 
 
あれから、
このようなお店にお目に掛ったことはない。
昨夜、しとしと雨は上がらず、
まんまるおっ月さんにも御目文字かなわず^^




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