秋のねざめ           



  この秋は 帰り来なむと 
  朝鳥の 音づれぬれば 
  さ牡鹿の 朝臥す野辺の 
  秋萩の はぎの初花 
  咲きしより 今か今かと 
  立ち待てば 雲居に見ゆる 
  雁がねも いや遠ざかり 
  行くなへに 山の紅葉は 
  散りすぎぬ もみぢは過ぎぬ 
  今更に 君帰らめや 
  ふる里の 荒れたる宿に 
  ひとり我が 有りがてぬれば 
  玉だすき かけて忍びて 
  夕星の か行きかく行き 
  さす竹の 君もや逢ふと 
  わけ行きて かへり見すれば 
  五百重山 千重に雪降り 
  棚曇り 袖さへひぢて 
  慰むる 心はなしに 
  からにしき 立ち帰り来て 
  草の庵に わびつつぞ居る 
  逢う由を無み

  大愚良寛










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