不完全な美  



ゲームの公平な利益分配を考えていて発見された
といわれる三角形がある。
パスカルの名前がついているけれど、
何世紀も前の学者たちも研究していた不思議な三角形だ。
三角形そのものは単純な構成で成り立っている。
一つの数は、その上段両サイドの2つの数の和で導かれる。
例えば中央の縦のライン1・2・6・20を着目すると、
その上段の両サイドの数字、
2ならその上段の1と1、6ならその上段の3と3、
20ならその上段の10と10を足した数字になっている。
これを繰り返し、
パスカルの三角形は左右対称のすそ野を広げてゆく。

1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1
1 5 10 10 5 1
1 6 15 20 15 6 1
1 7 21 35 35 21 7 1

パスカルの三角形

それだけのことだが、
ここに美しいと言われる数列[*1]が偶然重なっていた。
空間プランの仕事をしていたころ、
意識的にであれ無意識的にであれ、
お世話になったバランサーたちが
パスカルの三角関係に隠れていたのだ。


美しいバランサーは他に「白銀比」というものがある。
その一つはルート長方形、日本では別名「大和比」
と呼ばれているものだ。
この1:√2のバランスはとても日本人好みなのだそうだ。
中国やヨーロッパ文化のバランスから抜け出した
日本独自の美意識に通じるらしい。
そこのとこの想像力や着眼力は
欧米にない日本独自のセンスがあるように思う^^
日本独自のセンスを例えてみると、
幾何学的左右対称のフランス庭園と異なり、
自然に調和した日本庭園の美や、
左右非対称の阿吽像や京都御所の桜と橘もそうだが、
日本で生まれた左右非対称の伽藍配置だ。
日本陶芸茶碗の形状などに見られる「不完全な美」
と言えば分かりやすいかも。
もっとも価格を釣り上げる骨董趣味の収集家というセンスじゃなく。

この作品は不完全すぎますけれど^^


それはさておき、ふと気が付いたことがある。
学者たちが完ぺきの美を求めた「神の数式」。
数式は美しさに導かれると
重さがゼロになるという矛盾にぶつかった。
重さがゼロと言うことは、すべての物質が飛び出してしまい、
理論上、この世界の全ては無になり
存在することができないことになるらしい。
それを解決したのが日本の南部陽一郎氏。
彼は「完ぺきの美は壊れる運命にある」ことを解き明かした。
「鉛筆がたおれる」を引っ提げて
「対称性の自発的破れ」を解明したのだ。
完ぺきに設計され立っている「鉛筆がたおれる」
という南部氏の理論で、
美しい数式に重さが生まれることになった。
宇宙も地球も私たち人類も、
救世主(南部氏)のお陰で命拾いかもですne(笑


そうした南部氏の「鉛筆がたおれる」という発想は、
神代の昔から日本が育んできた
不完全なものに美を解するセンスであり、
それが大きく左右したのではないだろうかと勝手に思っている。
凡人は「きっとそうなんだろう」と、
自問自答の納得に過ぎないけれど、
それでも、南部氏の着眼点と想像力と冒険心に感動だ。

欧米文化に押されて、
日本の文化は中途半端になった(違うかな?)。
もう一度、
日本というものを足元から見直すのもいいのかも知れない。
「パスカルの三角形」に欧米の美の神髄が隠されていたように、
「対称性の自発的破れ」不完全な美に、
日本の創造力の源があるのかも…。




分かったような分からないような理屈ですが、
前述した欧米や他国アジアにはない日本人ならではの特性は、
未来に開花する花の種を持っているのじゃないかと、
独りそう思っている。






[*1]
  三角形に隠れている美しい数列。
  ・ピラミッドに並ぶ数字の頂点から右へ斜めに数字を降りて行くと、
   はじめは1,1,1,1,1…
  ・次の斜めのラインは全ての人がなじんでいる自然数
  (1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 6…)。
  ・次の斜めのラインは三角数の(1 , 3 , 6 ,10,15,…)。
  ・次のの斜めのラインは四面体数(1 , 4 ,10,20,…)となる。
  そして、少し面倒なので説明はとばします^^
  ここにフィボナッチの数列(1、1、3、5、8、13…)も隠れている。
  デザインを美しくするためのテクニックとして、
  古来より人間が最も美しいと感じる比率とした黄金比率に集約する数列だ。
  ギリシャ寝殿などの建造物や、ギリシャ彫刻の顔立ちのバランス、
  洋画などの画面構成比率もここに分析される。
  現在でも、世界の企業ロゴや建造物空間などのデザインに多く利用されている。







コメント