小さな窓
それから過ぎた日の
少し遅くれてのぼる十六夜月の夜でした。
ちいさな窓から差し込んできた光に
思い出したのは『絵のない絵本』
一人の貧しい青年に窓辺の月が語りかける三十三夜の物語。
月が語る物語は
気に留める人もなく過ぎてゆく。
それは忙しくざわめく人々にとって、
どうでもよい程ちいさな出来事です。
けれど、きっと幾らかの人は
そんな時間もいっぱいいっぱい生きている。
つつましく無抵抗で、どことなくこっけいな…
あの日、ためらって昇った夜の月の
小さな小さな、ほんとうに小さな窓の片隅で。
私の手の大きさでやや卵形の
何千年も前に作られ、
色々な意味で生き抜いてきた。
つつましく無抵抗で、どことなくこっけいな―
何かをつたえるのではなく
自己表現をするわけでもなく
けれど作り手とその生きた時代を内包し
映し出しているように見える。
その微かな力で・・・
Hans Coper/1969
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