ステンレスの錆
虹は二色だという文化があって、それを了解している国は、 その社会が基盤を置く言語に構築された実在を頼りに成立している。 わたしはゆっくり流れる時を歩いていた。 死ぬほど退屈なぐんじょ色の空にあくびを三つ四つして、 そしてだだっ広いだけのぐんじょ色の空の下、 そこにつながる海の向こうを夢に見た。 わたしはその先に何があるかなどわからないまま海を渡り、 そこの国では素足じゃなくて靴を履くのだとしった。 だから最初に白いソックスを買った。 そしてそれから赤い口紅を買った。 あれやこれいろいろ買って、そうして…、 一つひとつ退屈だった日を捨てた。 やがて何を買っても心が喜ばなくなったとき、 摩天楼に見上げた空はあまりにも小さいもので…。 海の向こうに夢があったかわからない。 ただ少しばかりの心残りは、 退屈な日々と一緒に捨てたぐんじょ色の空だった。 ステンレスの錆はまだ針の先ほどだと思いながら。